

流れる時間と共に〜不動尊公園キャンプ場〜
<後編>
早速、キャンプ場の管理事務所で受付を済ませつつ、売店をチェックすると、トングや薪はもちろんのこと、乾電池まであり、安心感が増していく。また、併設されたカフェではBBQセットや焼きマシュマロ、ピザ、さらにはブイヤベースを作るセットに加え、クラフトビールや各種コーヒーなどもあり、その充実具合に驚いた。

コーヒーは持参した豆とミルで淹れる予定のため、ここはキャンプ場で養蜂している蜂が不動尊公園内の植物から集めた蜂蜜と丸森産のレモンを使っているというレモネードを買うことに。川沿いの階段に座って、目の前の環境をそのまま凝縮したようなレモネードを口に含んだ瞬間、爽やかな酸味と甘みが、せせらぎの音とともに全身に染み渡るのが分かった。

今でこそ美しく整備されたキャンプ場だが、令和元年の台風19号では、巨石を巻き込みながら山から押し寄せた濁流によって、壊滅的な被害に見舞われたことを、当時ニュースで見て知っていた。それでも、地元の石工職人をはじめとした多くの関係者が、受け継がれてきた技術を生かして川を覆った巨石を活用し、この自然と調和した美しい空間を復活させたのだという。被害をもたらした巨石をただ撤去するのではなく、自然の恵みの一部として活用しようとする精神。それを知ると、今目の前の美しい景色が、単に丸森の自然の豊かさだけでなく、丸森の人々の生き方を象徴するものとして、さらなる広がりを持って心に迫ってくる。
不動尊公園キャンプ場では、キャンプサイトへの車の乗り入れができない代わりに、駐車場に設置されているリアカーに荷物を積んで指定されたサイトまで運び入れる。その途中には、川を跨ぐ逆さまのアーチ状の橋があり、入り口の下り坂を駆け下りた勢いで、最後の登り坂を一気に駆け上がる…、のがコツだそうだが、途中であえなく失速。最後は一歩一歩踏み締めるようにしてようやく向こう岸のキャンプサイトへ。指定されたサイトに着き、達成感と木漏れ日の中でひんやりとした石に腰掛けた。

今回は宿泊のないデイキャンプのため、必ずしもテントは必要ない。けれど、やはり気分を盛り上げるために設置することに決めていた。2年ぶりの設営作業は決してスムーズには行かず、付属の説明書を何度も確かめながら時間をかけて作業する。
「もっと早く設営しないと」。そんな言葉が頭をよぎり、ふと思った。自然の音に包まれたキャンプ場でのたった一人の時間。一体、何のために、誰のために、“早く”しないといけないのだろう。すると普段、「誰かのために」という時間があまりにもあり過ぎて、いつしか「自分のために」ということを忘れかけていた自分に気付く。


誰かに指示されるわけでも、誰かに指示するわけでもなく、どう過ごすかは全て自分次第。そう考えると、その自由さの前にどこか少し不安になって、でも、しばらくしてどこかホッとした気持ちが湧いてくる。テントをゆっくりと、ちょっとズボラに立てて、テーブルを好きな場所に置き、椅子に腰を下ろす。焚き火は着火剤で横着しても誰にも文句は言われないし、コーヒーも自分の好きなタイミングで淹れればいい。なんなら、何もせず座っていたっていいのだ。

椅子に座り、いつもより少し低い目線から、徐々に火が回ってゆく薪と、まるで砂時計のように一滴一滴と落ちるコーヒーの雫を見守る。急ぐ理由も、もっと言えば急がない理由すらもないその時間には、確かに目の前で時間が刻まれていく心地よさがある。
大銀杏の葉が日ごとに鮮やかな黄色に染まっていくこと。陽が次第にかげってゆくこと。焚き火にかざしたマシュマロがあっという間に焦げそうになること。ホットサンドの焼き加減を何度も蓋を開けて確かめること。コーヒーの雫の最後の一滴が落ち終わること。

時間を追うのでも、時間に追われるのでもなく、時間と共に過ごせることの尊さ。呼吸をするように優しく揺らぐ焚き火を見つめながら、寂しがり屋な自らを見つめ直したりもした。「次は誰かと一緒にここに来たいな」。そう思った帰り際、キャンプ中はずっと仕舞っていたスマートフォンの電源を入れて、「来年、またキャンプしようよ。おすすめのギアあったら教えて」と、友人に一通のLINEを送った。

不動尊公園キャンプ場
丸森町の阿武隈渓谷県立自然公園内にあるキャンプ場。木漏れ日が降り注ぎ、川も流れる敷地内には、キャンプサイトやコテージのほか、サウナも設置。キャンプギアのレンタルや、各種備品の販売に加え、コーヒーやクラフトビール、さらには食材を提供するカフェも併設されている。
WEB:https://www.fudousonpark.site
場所:〒981-2116 宮城県伊具郡丸森町字不動64-1
TEL:0224-72-2646
FAX:0224-86-5040
営業時間:9:30~17:30(冬季は9:30~17:00)
休園日:火曜日(祝日の場合は翌日)・年末年始・その他臨時休業日
文章
宮城県石巻市を拠点とする出版社・編集プロダクション。石巻と全国各地を行き来しながら、書籍の執筆や編集、ウェブサイトのコンテンツ制作、企業・団体のブランディングなどを行っている。またコミュニケーションも編集の事業領域と捉え、イベント企画やまちづくりにも関わる。
カメラマン
石川県金沢市生まれ、2006年大阪芸術大学卒業。都内スタジオ勤務を経てフォトグラファーに師事後独立し東京をベースに雑誌、カタログ、広告などで活動中。Instagram@teppeihoshida